はじめに
以下のようなツイートをしたところ複素解析の勉強にオススメの本を聞かれたので、それに対する返答としてこの記事を書きます。
今現在代数幾何が専門というわけではないですが、せっかくなのでコメントいたします。現代的(抽象的)な代数幾何を勉強するには「可換環と加群」と「層とコホモロジー」という二つのことを知っている必要があります。前者の「可換環と加群」は線形代数の一般化です。(1/6)
— 梅崎直也 (@unaoya) 2019年3月12日
より一般に整数全体がスカラーであるような「ベクトル空間」や多項式全体を線形代数では実数や複素数をスカラーとするベクトル空間を考えますが、スカラーにした「ベクトル空間」を考えます。この、整数全体や多項式全体というのが「可換環」の例であり、ベクトル空間の一般化が「加群」です。(2/6)
— 梅崎直也 (@unaoya) 2019年3月12日
この「可換環と加群」が代数幾何の局所的な部分を記述する言葉です。後者の「層とコホモロジー」は局所的なものの大域的な繋がり具合を記述する道具で、図形や関数が全体としてどのようになっているかを調べます。例えばホモロジー代数という名前のついている本とかを読むといいと思います。(3/6)
— 梅崎直也 (@unaoya) 2019年3月12日
位相空間についても少しだけ知っておくといいです。順序としては「可換環と加群」をやった後に「層とホモロジー」について勉強するのがいいでしょう。上で行った局所的と大域的というののイメージをと少し雑に言うと、微分と積分の違いです。(4/6)
— 梅崎直也 (@unaoya) 2019年3月12日
関数の微分をする、接線を引くためにはある点の周りの情報だけわかればよく、代数幾何においてはそれは「可換環と加群」の言葉で記述されます。一方で積分は面積ですから、関数についてあるひとまとまりの部分での様子を知る必要があります。「層とコホモロジー」はそのような情報を記述します。(5/6)
— 梅崎直也 (@unaoya) 2019年3月12日
また複素解析やリーマン面を勉強するのはオススメです。代数幾何と大きく関係し、具体的な関数をしることができて、層やコホモロジーのイメージをつかむことができます。具体的(古典的)な代数幾何の本もあるので、それらでイメージを持っておくといいと思います。長くなりましたが以上です。(6/6)
— 梅崎直也 (@unaoya) 2019年3月12日
訂正。線形代数では実数や複素数をスカラーとするベクトル空間を考えますが、より一般に整数全体がスカラーであるような「ベクトル空間」や多項式全体をスカラーにした「ベクトル空間」を考えます。この、整数全体や多項式全体というのが「可換環」の例であり、ベクトル空間の一般化が「加群」です。(2
— 梅崎直也 (@unaoya) 2019年3月12日
実際問題として、代数幾何を勉強したいですと言われたら、まず複素解析からやるかな。んで環論やってホモロジー代数やってスキームやる。
— 梅崎直也 (@unaoya) 2019年3月12日
複素解析をやる理由として、空間の概念がどう変わったかというのを考える必要が出てくるからというのもある。単に曲面論だけやってもユークリッド空間に埋め込まれたまま考えると、多様体のような空間を設定する必要性があんまり感じられない。複素解析というかリーマン面をやれば必要な気持ちになる。 https://t.co/A7vLcY2OzN
— 梅崎直也 (@unaoya) 2019年3月13日
オススメの本を聞かれたのだが、実際には勧めるほど本を知らないので、代わりに自分が代数幾何というかスキーム論を勉強する前に読んだ本のうちで関係ありそうなものを紹介することにしました。全て学部3年の時に勉強したことです。
Ahlforsの複素解析
東大の数学科では2年の後期と3年の前期に複素解析1, 2という授業がある。1の方は大体Cauchyの積分定理とか留数計算までをやって、2の方はその先の話題。1を受けていた時はそんなに面白いとも思っていなかったのだが(これはそもそもこの時点ではそれほど真面目に数学を勉強していなかったからという理由も大いにあると思う)、複素解析2はめちゃくちゃ面白かった。
特に解析接続周りの話が好きで、学部の演習の授業で解いた問題で唯一覚えているのが、解析接続の一価性定理、いわゆるものドロミー定理の証明。これはかなり頑張って考えて準備して発表した。この辺の話は基本群やホモロジーの概念の萌芽の一つであると思うけど、そういう点で代数トポロジーのようなものに興味を持ったりもした。リーマン面や層の話も授業で出て来て、こういった概念にとても興味を持った。
その授業で指定された教科書がAhlforsの複素解析で、それも割と真面目に読んだ。Cauchyの積分定理のところでは回転数やホモロジーについて書いてあったり、後半では上に述べたような解析接続や層(正確には層空間というべきか)や代数関数の話、あるいは楕円関数の話であったり、最後には超幾何微分方程式にも触れられている。この辺の話題はリーマン面や代数曲線、さらにその先の代数幾何を勉強する上で有用なイメージを与えてくれるように思う。
- 作者: L.V.アールフォルス,笠原乾吉
- 出版社/メーカー: 現代数学社
- 発売日: 1982/03
- メディア: 単行本
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KirwanのComplex Algebraic Curves
楕円関数を勉強したもののイマイチなんなのかよくわからないという気持ちがあったけど、それが一気にクリアになったのはこの本を読んだのがきっかけ。学部3年の後期には輪講という科目があって、指定された本から選んで希望するメンバーで自主ゼミをすると単位が出るというもの。上のように複素解析に興味があったこともあって、関連するであろうこの本が指定されていたので友達と読んだ。
この本にもリーマン面やその被覆に関するトポロジカルな性質について、またそれと代数曲線としての代数的な性質との関係について書いてあって、例えばリーマン面の種数というトポロジカルな量と代数曲線の次数という代数的な量の関係などが書かれている。そういうところがとても面白い本だった。RIemann-RochとかRiemann-Hurwitzの証明とかもしていて、代数曲線について基本的で重要な内容は抑えていると思う。
個人的にこの本を読んで最も感動したのはペー関数と楕円曲線、トーラスの関係について。要するにpとp’の関係式が楕円曲線になっていて、群構造もそれで対応しているという話で、Abelの加法定理の証明などもあってめちゃくちゃ面白い本だった。楕円関数についてはっきりわかってとても感動した。結局それがきっかけで楕円曲線を勉強することにして数論幾何をやることになった。
Complex Algebraic Curves (London Mathematical Society Student Texts)
- 作者: Frances Kirwan
- 出版社/メーカー: Cambridge University Press
- 発売日: 1992/02/20
- メディア: ペーパーバック
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Atiyah-MacDonaldの可換代数入門
これは有名な本だけど、代数幾何をやるために可換環論を勉強した方がいいということで演習問題を全部解いた。多分冬休みから春休みにかけてかな。可換代数入門だけど練習問題にはスキーム論を意識したというかまあそのままスキーム論の勉強になっているような問題もある。
- 作者: M.F. Atiyah,I.G. MacDonald,新妻弘
- 出版社/メーカー: 共立出版
- 発売日: 2006/02/01
- メディア: 単行本
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終わりに
以上が僕が読んだ本。どれもとても印象深くまた感動的で、だからこそその後数論幾何をやることになったわけですね。他にもきっと色々面白い本があると思いますが、参考になれば幸いです。