この記事はCategory Theory Advent Calendar 2018の19日目の記事です。
derived algebraic geometryというものがあり、それについて勉強しようと思ったので、その入り口のところであるToenによるD-prestackについてまとめます。実際にはModel圏についての必要な事柄をHirschhornのModel Categories and Their Localizationsに沿ってまとめるというのがこの記事の主な内容です。なお、ところどころよくわかってないところがあり、そこは説明していませんのでご注意ください。
参考文献は
[TV] Bertrand Toen, Gabriele Vezzosi, From HAG to DAG: derived moduli spaces https://arxiv.org/pdf/math/0210407.pdf
[H] Hirschhorn, Model Categories and Their Localizations https://web.math.rochester.edu/people/faculty/doug/otherpapers/pshmain.pdf
の二つです。
D-prestack
derived algebraic geometryでは、commutative dg k-algebraの圏のopないしcommutative simplicial k-algebraの圏のop上のsimplicial setの圏SSetなりに値を持つ関手のうちで性質のよいものを扱います。性質のよいというのは、例えば適当な位相で層になるなどです。代数幾何ではschemeはk-algopからSetに値を持つ関手で適当な位相で層になったり、stackはk-algopからGroupoidに値を持つ関手で適当な位相で層になったりします。これの定義域と値域を共に広げることで、いろんなことができるようになっていろんな問題が解決するそうですが、何も知らないのでこれ以上は説明しません。
ひとまず今回の記事に使うことととしてSSetにはモデル圏の構造が入り、それを用いて小圏CからSSetへの関手の圏SSetCにもモデル圏の構造が入ります。C=cdgaopとかcsaopとかに対し関手圏にこのモデル圏を入れ、適当な射のクラスでleft Bousfield localizationしたものがD-prestackの圏というものになります。このことを以下で説明します。
D-prestackの定義
まずはToen-Vezzosiに沿ってD-prestackの定義を説明します。以下ではcommutative dg k-algebraの双対圏をDaffと書きます。
SPr(daff)はDaff \to SSet全体の圏であり、ここにsimplicial model structureが入ります。関手圏にモデル圏構造を誘導する話については、次節に説明します。このモデル圏構造はその定め方からweak equivalence及びfibrationがobject wise、すなわちF:Daff \to SSetがweak equivalence(またはfibration)であることは、各xについてFxがweak equivalence(またはfibration)であることです。
CDGAの射f:a \to bがあれば、それが表現する関手の射f:h_a \to h_bが存在します。これら全体を集めた射のクラスをSとします。
TV, Definition 2.1 Model category of D-prestackとは、モデル圏SPr(daff)をSでleft Bousfield localizationした圏のことをいう。これをDaff^と書く。
Bousfield localizationの一般論からD-prestackの特徴づけを行います。
これのfibrant objectは次のように記述できます。 F:Daff \to SSetであって、
- 任意のDaffの(fibrantな?)対象xに対してFxはfibrant
- 任意のCDGAの射u:x \to yがquasi-isomorphismならFyはweak equivalence
を満たすもの。ここで1の仮定にxがfibrantであることが必要だと思うのですが、文献では課されていません。このことから、Ho(Daff^)はHo(SPr(Daff))の中でDaffのquasi-isomorphismをSSetのweak equivalenceに送るもののなす充満部分圏に自然に同一視できる。
TV, Definition 2.3 Daff^のobで任意のCDGAのquasi-issomorphismをSsetのweak equivalenceに送るものをD-prestackと呼ぶ。
ここはBousfield localizationの一般論で、次々節で紹介します。
普通のprestackでは単に関手を考えればよいはずですが、ここでは一度localizationしないといけないというところが違うようです。なぜこういう違いが表れるのかはまだ僕にはわかっていません。
SPr(daff)のモデル圏構造
上でSSetのモデル圏構造からSSet値関手圏にモデル圏構造を誘導しましたが、ここではその方法について簡単に説明します。ここはHirschhornを参考にしています。
これは一般論として次の命題があります。
H, Theorem 11.6.1. Cを小圏としMをcofibrantly generatedなモデル圏でIをgenerating cofibrationでJをgenerating trivial cofibrationとする。この時、MCにもcofibrantly generatedなモデル圏構造が入る。FCIがgenerating cofibrationでFCJがgenerating trivial cofibrationであり、またweak equivalenceとfibrationはobjectwiseである。つまり、F:C \to Mがweak equivalenceであることは任意のx \in CでFxがweak equivalenceであること、fibrationについても同様。
これの証明は
- MCdiscにモデル圏構造を入れる
- 忘却関手MC \to MCdiscの左随伴の記述
- 随伴関手からモデル圏構造の誘導(Kanの定理)
の三つからなります。
1について。 まずMCdiscにモデル圏構造を入れます。これは単にMの直積なのでそのまま成分ごとに入れればよいです。 これの生成系として、x \in Cに対してMCdiscの射の集合をI \times (\prod_{x \neq y} 1)、つまり自然変換のx成分がIでそれ以外が始対象の恒等射であるものをとり、これをxについて和を取ったものがgenerating cofibrationで、Jについても同様です。
2について。 次に忘却関手MC \to MCdiscの左随伴を作ります。これはいわゆる関手に対する自由関手の構成です。X:Cdisc \to Mに対してFX:C \to Mを\coproda \in CXa \otimes Fa*とします。 Fa*は関手C \to Setでb \mapsto C(a,b)であり、g \mapsto (h \mapsot gh)で定まるもので、SをSetでXを適当な圏Dの対象とした時X \otimes SはXのS添字の直和でDの対象、SをC \to SetでXを同様にした時、X \otimes SはC \to Dで(X \otimes S)a = X \otimes Saで定まるもの。つまりFXb = \coproda Xa \otimes C(a,b)で射は後ろに合成する。 すると、これは忘却関手の左随伴であることが確かめられます。
3について。 随伴F:M \to NとU:N \to MがあればMのモデル圏構造からNのモデル構造を誘導できるというKanによる定理を使います。この定理の仮定として、small object argumentを使えるか確かめる必要がありますが、この辺はまだ理解してないので今回は割愛します。 この時、誘導されたNのモデル圏構造はFIをgenerating cofibrationとしFJをgenerating fibrationとします。
上の定理と同様にMがsimplicial cofibrantly generated model categoryである場合に、MCをsimplicity model categoryにすることができるというのが[H, Theorem 11.7.3]です。実際はこれを使っています。
Left Bousfield localization
ここではBousfield localizationについて、[H]に従って説明します。
まずBousfield localizationとは何かというと、モデル圏Mについて、その射のクラスSを与えた時に、対象がMと同じでSに属する射が全て可逆となるようなモデル圏の中で普遍的なものを作る構成です。
ここで普遍性は次のような性質を言います。[H, Definition 3.1.1., Theorem 3.3.19]
left Quillen functor j:M \to LSMについて、そのtotal left derived functor Lj:Ho(M) \to Ho(LSM)はCの要素を可逆な射に写し、これを満たすようなleft Quillen f:M \to Nに対して一意的にleft Quillen d:LSM \to Nが存在する。
構成は[H, Definition 3.3.1]で与えられます。
Model category (M,W,C,F)とSを射のクラスとする。 xがS-localとは
任意のf:A \to B \in Sについてf*:map(b,x) \to map(a,x)がweak equivalenced
であることを言います。
g:x \to yがS-local equivalenceとは
任意のS-local zに対し、g*:map(y,z) \to map(x, z)がweak equivalence であることです。
ここでmapはhomotopy function complexというsimplicial setなのですが、詳細はよくわかってないので割愛します。
W_SをS-local equivalence全体とし、F_SをW_S \cap Cに対しRLPを持つもの、Cは元のCと同じとします。 この時(M,W_S,C,F_S)をleft Bousfield localizationといいLSMと書きます。
さて、LSMにおけるfibrant objectの特徴づけとして、
H, proposition 3.4.1. Mがleft properであるとき、xがLSMのfibrant objであることとxがMでS-localであることが同値
上の命題の証明を以下で行います。
まずxがLSMのfibrant objectの時にMでS-localであることを示します。 これはQuillen pair 1:M \to LSM:1が存在し、3.1.6によりxがS-localであることがわかります。
逆に、xがS-localと、これがLSMでfibrant objectである、つまりx \to 1がLSMでfibrationであることを示します。LSMの構成で、fibrationはWS \cap Cに対してRLPを持つものでした。よって、f:y \to zがMのcofibrationでS-local equivalenceならx \to 1がiについてRLPを持つことを言えばよいです。
このことを
- fのcosimplicial resolution f~:y~ \to z~であってReedy cofibrationであるものをとれる
- x \to 1がf~0についてRLPを持つ
- x \to 1がfについてRLPを持つ
という三つのステップに分けて証明します。
1について。 まずyのcosimplicial resolution y~とは、cosimplicial objectのなす圏MΔにおけるconstant object ccyのcofibrant approximationです。xのcofibrant approsimationとはx~がcofibrantでi:x~ \to xがweak equivalenceであるような(x~,i)のことを言います。つまり、y~ \to ccyがweak equivalenceでy~がcofibrantです。zについても同様にとり、さらに射を持ち上げることで、f~を構成します。
さらに16.1.22ではそのcosimplicial resolution f~をReedy cofibrationであるように取ることができることを主張します。cofibrationでなくてtrivial cofibrationであることが必要ですが、これは16.1.24を使います。このことからf~0がS-localであることを言いたいのですが、ここではMに対してではなく、LSMに対して定理を用いる必要があります。
[H, Theorem 15.3.4]によりMΔにReedy model structureを入れることができます。これはΔのような適当な条件を満たす圏からの関手圏MCに定まるもので、Reedy cofibrationとは任意のa \in Cについてrelative latching map X_a \amalg_{L_aX}L_aY \to Y_aがMのcofibrationであるようなものです。 ここでL_aXやR_aXはaやXやCの構造から定まる適切なcolimitとlimitです。
2について。 ここではp:x \to 1がf~0についてRLPを持つことを示します。
f~0がS-localであるのでhomotopy function complexに
- weak equivalence f~0*:map(z~,x) \to map(y~,x)
- weak equivalence f~0*:map(z~,1) \to map(y~,1)
を誘導し、このことから(f~0,p)がhomotopy orthogonal pairである、 つまりmap(z~,x) \to map(z~,1) \to map(y~,1)とmap(z~,x) \to map(y~,x) \to map(y~,1)がhomotopy fiber squareであることがわかります。 (これはmap(z~,1) \to map(y~,1) \gets map(z~,x)のhomotopy pullbackへのmap(z~,x)からの射がweak equivalenceであるということで、weak equivalenceのhomotopy pullbackがweak equivalenceあること及び2outof3からわかる)
さらに、f~0がcofibrant objectの間のcofibrationで、pがfibrant objectの間のfibrationで、(f~0,p)がhomotopy orthogonal pairなので17.8.9によりp:x \to *はf~0についてRLPを満たすことがわかります。
3について。 x \to 1がfについてRLPを持つことを示します。Mがleft properであることを使うと
- 取り方からfはMでcofibration
- 16.1.5からf~がcosimplicial resolutionであることからf~0はfのcofibrant approximation
- すでに見たようにx \to 1はf~0についてRLPを満たす
- 定義からx \to 1はMでfibration
なので、13.2.1よりx \to 1がfについてRLPを持つことがわかります。
以上でこの記事の内容は終わりです。モデル圏についての理解が整理しきれていないので、いずれその辺りを補いたいと思います。