この記事は日曜数学Advent Calender 20日目の記事です。まずはじめに投稿が遅れてしまったことをお詫びいたします。
adventar.org
前日19日はa33554432さんの複雑さとは何かを考える - 機械のように今を輝き、少女のようにここを定義せよでした。
先週の記事
unaoya-pi.hatenablog.com
の続編として、Waldspurgerによる定理と相対跡公式を用いた証明を紹介する予定でしたが、予定を変更して保型形式と群の表現がどのように対応するかという話を紹介します。これは定理を理解するためのより基本的な内容です。今後数回にわたって準備を行った後、定理について紹介したいと思いますのでしばらくお付き合いください。
この記事を書くにあたり
高瀬幸一著 保型形式とユニタリ表現
https://www.sugakushobo.co.jp/903342_52_mae.html
を大いに参考にしました。
また、この他に同様の内容が解説されたものでweb上で読めるものとしては、
などがありますのでそちらもご参照ください。
あらすじ
- 上半平面上の保型形式 f に対して、群G=GL(2,R)+上の関数φfを対応させます。
- このG上の関数φfから、Gの表現πfを作ります。
- このGの表現πfがどのように記述されるかを見ていきます。特に、これが離散系列と呼ばれる表現になることを説明します。
保型形式
まず初めに保型形式の定義を復習しましょう。
ここでは保型形式とは、複素上半平面上の正則関数 f で、無限遠でのある種の増大条件を満たし、a,b,c,dが整数でad-bc=1であるものに対して、次のような変換規則を満たす関数のことを言います。
ここで、nは整数で、これを保型形式 f の重さと呼びます。
上で現れたzをaz+b/cz+dに移す変換は複素上半平面の一次分数変換と呼ばれるもので、これはSL(2,Z)の上半平面への作用を表します。
一次分数変換はa,b,c,dが実数でも定義され、それによりSL(2,R)は上半平面に作用します。
この作用で点iがどのようにうつるかを考えると、c=0の場合を考えればa/di+b/dでa/d>0なのが条件であり、上半平面全体をうつり合うことがわかります。
また i を動かさないようなa, b, c, dがどのようなものか考えると、i(ci+d)=ai+bであり、ad-bc=1と合わせるとa=d=cos t, -b=c=sin tとなることがわかります。つまり、直交行列SO(2)に属する行列で i は固定されるということです。このSO(2)を以下ではKと表します。
さらに実は行列式が正であるような2次正方行列全体のなす群であるGL(2,R)+も作用します。ここで行列式が負だと上半平面が下半平面に移ることに注意しましょう。
群上の関数
ここでは保型形式 f に対して群G=GL(2,R)+上の関数φfを定める方法を説明します。
保型形式は上半平面上の関数でしたので、上半平面とG=GL(2,R)+を関係付けます。ここでGは行列式が正の2次正方行列全体のなす群です。
上で見たようにGは一次分数変換により上半平面に作用し、回転行列K=SO(2)を部分群に持ちます。上半平面の点 i を固定する部分群がちょうどこのKに一致し、また i が上半平面全体にうつることから、G/Kと複素上半平面が一致することがわかります。これによりGから上半平面への写像 p が p(g) = giとして定義できます。この写像 p と合成することで、上半平面上の関数 f からG上の関数 fp を定めることができます。
実際には、群Gの性質と結びつけるために、もう少し修正したものを f に対応する関数φfであるということにします。具体的にはどのようにするかというと、
$$
\phi_f(g) = (\det g)^{n/2}\frac{1}{(ci+d)^n}f(gi)
$$
として定めることにします。するとこれは
- Gの中心Zの作用で不変、つまりZの元zに対しφf(gz)=φf(g)
- SL(2,Z)の作用で不変、つまりSL(2,Z)の元γに対しφf(γg)=φf(g)
- K作用でδ-n(k)=exp(-inπ)倍、つまりKの元kに対しφf(gk)=exp(-inπ)φf(g)
な複素数値連続関数であることがわかります。これは
- 中心はスカラー行列であり、det(gz)=det(g)z2であることと、(ci+d)がz倍になること、及び一次分数変換には影響ないこと
- SL(2,Z)作用はfが保型形式であることから(ci+d)-nと打ち消し合い、det=1
- det k=1であり、iにはKは作用せず、(ci+d)への作用がexp(-inπ)となる
というところに気をつけて実際に計算することで確かめることができます。ここで保型形式の重さはKの作用の様子に現れていることに注意します。
逆にこの条件を満たすG上の複素数値連続関数 φ に対し、逆の構成として f を定めることができ、これはSL(2,Z)についての最初に見た保型形式と同様の変換規則を満たす関数になります。ただし、この条件だけでは、正則関数であること、無限遠での増大条件の二つは満たされるかがわからないことを注意しておきます。
群上の関数と群の表現(有限群の場合)
群G上の関数に群の表現が定まることについて、ごく簡単な有限群の場合に説明してみます。ここの話は論理的には独立で飛ばして読むことができます。
G上の関数空間にはGが平行移動で作用します。つまり関数fが群Gの元gによって(gf)(x)=f(g-1x)という関数に変換されます。関数空間は線型空間なので、これによってGの線型表現が定まります。
ごく簡単な有限群G={e, g}の場合に考えてみましょう。この群は2点からなる集合で、eを単位元、g-1=gとして群構造が定まっています。このG上の関数はe, gでの値を決めることで決まります。
ベクトル空間としては2次元で、例えばδeをδe(e)=1, δe(g)=0とし、δg(e)=0, δg(g)=1とすることで基底とすることができます。このベクトル空間へのGの作用は、関数f(x)に対してx \mapsto f(g^{-1}x)という関数を与えるものです。従って、
- (gδe)(e)=δe(g-1e)=0, (gδe)(g)=δe(g-1g)=1
- (gδg)(e)=δg(g-1e)=1, (gδg)(g)=δg(g-1g)=0
つまりgδe=δg, gδg=δeとgがδeとδgを入れ替えるという作用として表現が定まっています。
この基底は表現と相性がよくなく、代わりにχ0=δe+δgとχ1=δe-δgという基底を考えましょう。するとこれらはgの作用についてそれぞれ固有値1, -1の固有関数になっています。この基底を考えることで関数空間を表現の直和に分解することができます。
一般にG上の関数 f が与えられたとしましょう。f(e)=a, f(g)=bとすると、f=(a+b)/2χ0+(a-b)/2χ1と分解できます。このことから、a+bとa-bのいずれもが0でない場合にはfがGの表現として関数空間全体を生成し、どちらかが0の場合にはいずれかの既約表現を生成することがわかります。
GL(2,R)+の表現
さて上で見たように、保型形式 f からG=GL(2,R)+上の関数φfを構成することができました。またG上の関数空間には内積が定まり、Gが内積を保って線形に作用するため、この関数φfからGのユニタリ表現が定まります。そこで、この表現がどのようなものか調べてみましょう。
一般的にG= GL(2,R)+のような群Gの表現を調べる方法として、表現そのものではなく、その表現に付随するGのLie環gの表現とGの極大コンパクト部分群Kの表現を用いて調べるという方法があります。GL(2,R)+に対してはgは2次正方行列全体、K=SO(2)です。
この二つの表現に置き換える理由としては、それぞれ
- コンパクト群の表現は全て有限次元になる
- Lie環gはそれ自体が線型空間である
ためにGそのものよりは扱いやすいということがあります。実際に、GL(2,R)+の既約ユニタリ表現は、それに付随するgの表現とKの表現を見ることで分類できます。これらについての具体的な計算については以下で見ていきますが、その前にどのような情報を見るのかについて、ここで簡単に説明しておきます。
まずKの表現ですが、Gの表現をそのまま部分群Kの表現とみなすことができます。この表現からK有限というある性質を満たすベクトル全体を集めると、稠密な空間になります。これをKの表現として直和分解することができます。(関数全体から多項式のなす部分を集めてきたようなものだと思ってください。)
上でも述べたようにコンパクト群Kの既約表現は全て有限次元です。特に今回のK=SO(2)の場合、その表現はkに対してその角度θとするとδn(k)=exp(iπnθ)という1次元表現が既約表現全体となります。したがって、与えられたGの表現πをKに制限して、そのK有限部分の既約成分としてどのδnが現れるかを見ることがπの情報を与えます。これを表現のK-typeといいます。
一方でLie環gとはある種の行列のなす線形空間で、かっこ積[X,Y]=XY-YXという演算が定まっています。G=GL(2,R)+の場合にはそのLie環は2次正方行列全体、G=SL(2,R)の場合にはそのLie環は2次正方行列でtrace(X)=a+d=0を満たすもの全体のなす線形空間です。
Lie環gからその普遍包絡環U(g)と呼ばれる非可換な環を構成できます。これはおおよそLie環gの基底を適当にとってそれを変数とする(非可換な)多項式全体を考えるものですが、ここにXY-YX=[X,Y]という関係式を入れておきます。これについて詳しくは後の節で説明します。とりあえずここでは、U(g)にはCasimir元という特別な元Ωがあり、これの固有値が表現についての重要な情報を与えるということ述べるにとどめておきます。
まとめると、Gの表現からその
が定まります。この情報が、Gの既約ユニタリ表現を完全に決定してしまうことがわかっています。そこで、保型形式 f から定まる関数φfについて、そのK-typeとCasimir元の固有値を調べることがこの先の目標になります。
実はK-typeについてはもうすでに計算していて、Kの元kに対しφf(gk)=exp(-inπ)φf(g)となるのでした。つまりここに現れるK-typeはδ-nです。(ただし、生成した表現の中には他にもK-typeが現れます。あくまでもφfというベクトルに対応する既約成分がδ-nであるということです。)
では、この先はLie環の作用がどのようなものであるのかについて詳しく見ていくことにしましょう。
リー環の関数空間への作用
ここではGの表現に付随するLie環gの表現について、具体的な例を計算してみましょう。
一般にG上の関数へのgの作用は次の式で定まります。
$$
Xφ(g)=\frac{d}{dt}(\phi(g\exp(tX))\vert_{t=0}
$$
これがどのようなものであるかを簡単に説明しましょう。まずexpは行列の指数関数で、指数関数のテイラー展開
$$
\exp(x)=1+x+\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3!}+\cdots
$$
に行列を代入したものとして定義します。すると、これがGの要素になることがわかり、gexp(tX)もGの要素なので、φの中に入れることができます。これをtの複素数値関数とみなし、tで微分した上でt=0を代入するというのが上の式です。
以下ではG=GL(2,R)+について、その群G上の関数であって、
- Gの中心Zの作用で不変、つまりZの元zに対しφf(gz)=φf(g)
- K作用でδ-n(k)=exp(-inπ)倍、つまりKの元kに対しφf(gk)=exp(-inπ)φf(g)
という条件を満たす関数について、Gのリー環gの作用を見てみましょう。先ほども見たように保型形式に対応する関数はこの二条件をみたしますので、現在の目的においては特におかしな仮定というわけではありません。
これらの条件をみたすG上の関数については、G全体での様子を知るには
$$
\phi\begin{pmatrix}y & x\\0 & 1\end{pmatrix}
$$
のみをみればよいことがわかります。実際、Zの作用で行列式が1の場合にうつすことができ、Kの作用の様子が決まることからSL(2,R)/Kでの様子がわかればよいためです。(上のx, yは上半平面のx+yiに対応しています。)
従ってこの条件のもとではSL(2,R)の表現を見ればよく、Lie環としてもSL(2,R)のLie環sl(2,R)について、その作用を調べれば十分です。さて、sl(2,R)の作用を実際に計算していきます。sl(2,R)の基底として
$$
X_0=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix},
X_+=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix},
X_-=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}
$$
を取ることができます。今回はこれとは別に
$$
X_0=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix},
X_1=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix},
X_-=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}
$$
という基底について、これらの関数への作用を計算してみます。
まずX0の作用です。
指数関数と三角関数のTaylor展開を思い出すと、
$$
\exp(tX_0)=\begin{pmatrix}\cos t & -\sin t \\ \sin t & \cos t\end{pmatrix}
$$
であることがわかり、これはKの要素です。従って、上の関数のK作用についての条件から
$$
\phi(g\exp(tX_0))=\frac{d}{dt}(\delta_{-n}(k(t)))\vert_{t=0}\phi(g)=\frac{d}{dt}(\exp(-int))\vert_{t=0}\phi(g)=-in\phi(g)
$$
となります。つまりX0φ=-inφです。
次にX1の作用です。
$$
\exp(tX_1)=\begin{pmatrix}1&t\\0&1\end{pmatrix}
$$
であるので、
$$
\begin{pmatrix}y&x\\0&1\end{pmatrix}\exp(tX_1)
=\begin{pmatrix}y&x\\0&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&t\\0&1\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}y&yt+x\\0&1\end{pmatrix}
$$
であり、これを用いてd/dtφ(gexp(tX_1)|t=0を計算しましょう。
合成関数の微分により
$$
X_1\phi(\begin{pmatrix}y&x\\0&1\end{pmatrix})
=\frac{d}{dt}\phi(\begin{pmatrix}y&x\\0&1\end{pmatrix}\exp(tX_1))\vert_{t=0}
=y\frac{d}{dx}\phi(\begin{pmatrix}y&x\\0&1\end{pmatrix})
$$
となる。
最後にX-の作用を計算しましょう。
$$
\exp(tX_-)=\begin{pmatrix}e^t&0\\0&e^{-t}\end{pmatrix}
$$
であり、
$$
\begin{pmatrix}y&x\\0&1\end{pmatrix}\exp(tX_-)
=\begin{pmatrix}y&x\\0&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}e^t&0\\0&e^{-t}\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}e^ty&xe^{-t}\\0&e^{-t}\end{pmatrix}
=e^{-t}\begin{pmatrix}e^{2t}y&x\\0&1\end{pmatrix}
$$
となります。
ここで関数がZ不変であることを用いると
$$
X_-\phi(\begin{pmatrix}y&x\\0&1\end{pmatrix})
=\frac{d}{dt}\phi(\begin{pmatrix}y&x\\0&1\end{pmatrix}\exp(tX_-))\vert_{t=0}
=\frac{d}{dt}(\phi (\begin{pmatrix}e^{2t}y&x\\0&1\end{pmatrix})\vert_{t=0}
=2y\frac{d}{dy}\phi(\begin{pmatrix}y&x\\0&1\end{pmatrix})
$$
となります。
普遍包絡環とCasimir元
上の計算を踏まえてCasimir元Ωの作用の様子を計算します。その前に普遍包絡環U(g)について簡単に紹介します。
gは有限次元の線型空間で、その基底を例えばX, Y, Zとします。これを変数とする非可換な多項式全体を考えます。例えばXY, ZX+YX, X3+Y2+Z+1などです。ここでXYとYXはこの時点では等しくないということに注意してください。
ここでこれらが可換になるような関係式を入れると、これは通常のn変数の多項式全体になります。一方で、U(g)を定めるためにはXY-YX=[X,Y], XZ-ZX=[X,Z], YZ-ZY=[Y,Z}という関係式を入れます。言い換えるとXY=YX+[X,Y]などが成り立つということです。ここで、[X,Y]はLie環gの元なので、適当にX, Y, Zの1次式として表されています。[X,Y]=XY-YXだったから何かおかしな感じがすると思いますが、ここではU(g)の多項式としての積XYとgの行列としての積XYを混同しないように注意してください。
これは実際には取り方に依存せずに定まる非可換な環になります。これをgの普遍包絡環といい、U(g)と表します。
Casimir元ΩはU(g)の中心に属します。ここで中心であるとは、全てのU(g)の元Xに対してΩX=XΩとなることをいいます。このようなΩについては次のようなよい性質があります。Ωの固有ベクトル f があった時、他のU(g)の元XでfをうつしたXfを考えます。すると、Ωが中心に属することから、
$$\Omega Xf=X\Omega f=Xkf=kXf$$
となり、fとXfはΩに関する同じ固有値の固有ベクトルになります。
sl(2,R)の基底として
$$
X_0=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix},
X_+=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix},
X_-=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}
$$
をとってみましょう。交換関係は単純な行列の計算[X,Y]=XY-YXにより、
- [X0,X+]=-2X-
- [X0,X-]=2X+
- [X+,X-]=2X0
となることが確かめられます。
さらに
$$
\Omega=-\frac{1}{8}(X_0^2-X_+^2-X_-^2)
$$
とすると、これがU(g)の中心に属します。このΩをなぜそのようにするとうまくいくのかは置いておいて、実際にΩがU(g)の中心に属することを計算して確かめて見ましょう。
U(g)での積の交換関係はXY-YX=[X,Y]でした。このことから、
$$
XY^2=XYY=(YX+[X,Y])Y=YXY-2ZY=Y(YX+[X,Y])-2ZY=Y^2X-2YZ-2ZY
$$
$$
XZ^2=XZZ=(ZX+[X,Z])Z=ZXZ+2YZ=Z(ZX+[X,Z])+2YZ=Z^2X+2ZY+2YZ
$$
と計算できます。従って
$$
XΩ-ΩX=\frac{1}{8}(X^3-XY^2-XZ^2)-\frac{1}{8}(X^3-Y^2X-Z^2X)=0
$$
であり、YΩ-ΩYやZΩ-ΩZについても同様に0であることが確かめられます。
Lie代数や普遍包絡環については、Naughieさんによるこちらもご覧ください
Lie 代数と量子群 –Naughie's Advent Calendar
保型形式に対応する表現
改めて、保型形式に対する関数から定まる表現がどのようになるかについて、ここまでの話をまとめます。
保型形式fから定まる関数φfを
$$
\phi_f(g) = (\det g)^{n/2}\frac{1}{(ci+d)^n}f(gi)
$$
と定めます。するとこれはZ作用、K作用について
- Gの中心Zの作用で不変、つまりZの元zに対しφf(gz)=φf(g)
- K作用でδ-n(k)=exp(-inπ)倍、つまりKの元kに対しφf(gk)=exp(-inπ)φf(g)
という性質を満たします。ここへのLie環gの作用、特にCasimir元の作用を計算します。
$$
X_0\phi(g)=-in\phi(g)
$$
$$
X_1\phi(\begin{pmatrix}y&x\\0&1\end{pmatrix})
=y\frac{\partial}{\partial x}\phi(\begin{pmatrix}y&x\\0&1\end{pmatrix})
$$
$$
X_-\phi(\begin{pmatrix}y&x\\0&1\end{pmatrix})=2y\frac{\partial}{\partial y}\phi(\begin{pmatrix}y&x\\0&1\end{pmatrix})
$$
となることはすでに見ました。さらにW+=X0+2X1+iX-とおくと、これの作用は
$$
W_+\phi_f=(X_0+2X_1+iX_-)\phi_f=2y^{(n+2)/2}(\frac{\partial}{\partial x}+i\frac{\partial}{\partial y})f
$$
となることが確かめられます。これはいわゆるCauchy-Riemann方程式で、fが正則関数であることとこれが0になることが同値です。fは保型形式でこれは正則関数なのでW+φf=0となることがわかります。
さらに、W-=X+-iX-とすると
Ω=-(X02-W-W++2iX0)/8と計算できるので、
$$
\Omega\phi_f=-\frac{1}{8}(X_0^2\phi_f-W_-W_+\phi_f+2iX_0\phi_f)
=-\frac{1}{8}(-in)^2\phi_f+0+2i(-in)\phi_f)=-\frac{1}{8}(n^2-2n)\phi_f
$$
となります。つまり、φfはΩについての固有値(n2-2n)/8の固有関数であることがわかります。
さらにであることも確かめました。
以上のことから、f に対応する表現はK-typeにδ-nをもち、Casimir固有値が(n2-2n)/8となります。表現の分類を見ることでこの表現は反正則離散系列表現π-nであることがわかります。
ここまでが、この記事で紹介したかったお話です。離散系列表現を誘導表現として構成する話や離散系列表現以外のSL(2,R)やGL(2,R)の表現についてはまた日を改めてご紹介しようと思います。
次回予告
今回は保型形式からSL(2,R)やGL(2,R)+といった実Lie群の表現を作るという話をしました。保型形式の重要な性質として、そのHecke作用素による作用、Fourier係数、L関数などがあります。これらを表現論的に捉えるには、保型形式を実数成分の行列ではなくアデール成分の行列の表現として捉えることが必要になります。次回はこの辺りの事情についてご説明いたしますのでお楽しみに。