pi

円周率

類体論

これから何回かに分けて類体論とそれにまつわる数学的対象について整理していこうと思います。ここでは類体論とはいわゆる大域類体論のことで、この記事ではまず簡単に類体論の主張について紹介します。

より平易な解説としては例えばtsujimotterさんの

tsujimotter.hatenablog.com

をごらんください。この記事での定式化は上のものと少し異なりますが、その比較についても後に簡単に説明します。

準備

類体論の主張を述べるために必要な大域体と局所体、イデールについて簡単に紹介します。

これらの最も簡単な例は以下のものです。

  • 大域体は有理数体Q
  • Qの局所体はp進数体Qpもしくは実数体R
  • QのイデールAQxとは、x=(x2, x3, x5, ...)のようにQの局所体QpとRの元を並べたものの集まり。ただし、各々xpは0でなく、また有限個を除いては既約表示した分子分母にpが現れないもののみを集めます。例えばAQxの元としては(1,1,1,...), (2,2,2,...), (2,3,5,1,1,...)のようなものはいいけど、(2,3,5,7,11,13,...)のようなものはダメ。

大域体

より一般に大域体とは

  • 有理数体もしくはその有限次拡大
  • 有限体上の曲線の関数体

のことを言います。 有理数体Qの他には例えばGauss有理数(という言い方があるかはわかりませんが)a + bi 全体のなす体Q(i)や円分体などがあります。

局所体

大域体には素点というものが定まります。 これは有理数体における素数pのようなものです。 大域体Eとその各素点vに対して、局所体Evが定まります。 E=Qの場合には、EvはQpまたはRのいずれかです。

一般に局所体は

  • p進体Qpもしくはその有限次拡大
  • 実数体Rまたは複素数体C
  • 有限体係数のLaurent級数体

のいずれかです。

イデール

大域体Eとその各素点vに対して局所体Evが定まります。 各Evから一つずつ元をとってまとめたx = (xv)という形の元を考えます。 ただし、各々xvは0ではなく、また有限個の例外を除いてxvの分子分母がvで割れないようなもののみ集めます。 これらを集めたものをEのイデールといい、AExと書きます。

イデールは各成分ごとの積により群になります。

またEの0以外の元全体ExはEの元xを単に並べた(x,x,x,...)とみなすことでAExの部分群になり、これによる商群Ex \AExをイデール類群と呼びます。

大域類体論

類体論は大域体Eのアーベル拡大の様子をイデールを用いて記述する理論のことです。 またそれを通して素数の分解法則や平方剰余の相互法則のような数論的な現象を記述することができます。

GEabはEの最大アーベル拡大EabのGalois群とします。

大域体Eに対し、相互写像

 r_E : E^\times \backslash A_E^\times \to G_E^{ab}

が存在して、以下の性質を満たすというのが類体論の主張です。

関手性

F/Eを大域体の有限次拡大とした時、ノルム写像N:F -> Eが定まり、相互写像はこれについて関手的である。 つまり、Nが定めるN:Fx \AFx -> Ex \AExと拡大から定まる包含写像i:GFab -> GEabについて、

r_E N = i r_F

が成り立ちます。

またE/FがGalois拡大の時、相互写像から定まる写像

 (E^\times \backslash A_E^\times) / N(F^\times \backslash A_F^\times) \to Gal(F/E)

は同型になります。

局所大域整合性

大域体Eの局所体Evの元xに対し、イデールの元yをv成分がxで他が1として定めることができます。 このyを相互写像rEで写した行き先は、vでのFrobenius写像になります。 より精密に、以下で述べる局所相互写像によりyの行き先を記述することができます。

逆にいうとrEはEの各素点vでの局所相互写像rvをまとめたものとして定義することができるというのがこの整合性です。

局所類体論

局所大域整合性を記述するために局所類体論を説明します。

局所体Evの最大アーベル拡大のGalois群をGvabとします。 これに対し、局所相互写像

 r_v:E_v^\times \to G_v^{ab}

が定まり、以下の性質をみたします。

Fw/Evを局所体の有限次拡大とした時、ノルム写像N:Fw -> Evが定まり、相互写像はこれについて関手的。 つまり、Nが定めるN:Fwx -> Evxと拡大から定まる包含写像i:Gw -> Gvについて、

r_v N = i r_w

が成り立ちます。

またFw/EvがGalois拡大の時、相互写像が誘導する

 E_v^\times/NF_w^\times \to Gal(F_w/E_v)

は同型になります。

さらに局所相互写像により、Evの素元とGvabのFrobeniusが対応します。

実際には素元は一意ではなく、またFrobeniusも一意ではないですが、この不定性も対応します。 また、拡大の分岐から定まるGvの部分群とEvxの適切な部分群が対応することもわかります。

相互写像

相互写像という名前について、推測ですが以下のようなことと関係があると思います。

上の定理の主張ではさらっと書かれていますが、重要なポイントは、局所体の相互写像rvを集めてできる大域体の相互写像rEは、イデール類群E^\times \backslash A_E^\timesからの写像であるということです。

例えばEが有理数体Qの場合、有理数xに対しこれを各p進体Qpの元だと思った上で局所相互写像でうつすとrp(x)たちが定まります。 上でいうイデール類群からの写像であるという事実は、このrp(x)をp全体で積を取ると1になるということを意味します。

これが積公式や平方剰余の相互法則といった整数論的な現象と関係してきます。 平たく言えば局所的な情報を集めてくることで大域的な情報が得られるということで、微分と積分を結びつける微積分学の基本定理のようなものかもしれません。

イデアルとイデール

ここでは類体論をイデール類群を用いて定式化しましたが、イデアル類群を用いた形で定式化されることも多く、上で紹介した記事もそのように書かれています。

ここで紹介したものとの関係は、簡単に言うと次のようにイデールとイデアルを対応させることで説明できます。

イデールの元(xv)に対して、イデアル \prod_vp_v^{ord_v(x_v)}を対応させます。ここでordvはxvがvで何回割れるかです。

イデールの定義からこれは実質的には有限積なので、ちゃんとイデールの元にイデアルを対応させることができます。 これにより二つの相互写像の定式化を結びつけることができます。

例えばQのイデールの元xとしてp成分のみpで他が1の元を考えると、イデアルとしては素イデアルpに対応します。 局所大域整合性から、rQ(x)はpでのFrobeniusに移ります。 つまりイデアルを用いた相互写像の定式化では、素イデアルpが相互写像によりpでのFrobeniusにうつるということになります。

また局所類体論での分岐の記述により、modulus付きのイデアル類群とray類体についての相互写像も理解できます。

次回予告

次回は、局所類体論の主張とその証明の方針ついて解説していきます。